研究会に参加してきました in 大阪

 

細江弥生

 

先月末に大阪工業大学で開催された、

「第23回音楽の科学研究会」第17回音楽とウェルネスの学際的融合研究会」に参加してきました。

 

私が働く病院に研究員としていらっしゃっている方が誘って下さり参加する事ができたのですが、とても刺激的な研究会、そして刺激的な方々に出会えて本当に感謝しています。

 

研究会ではまず、三重大学大学院で音楽療法の効果に関する科学的証拠について研究をされている田部井さんが、音楽療法の臨床研究において「先行研究と病体をふまえた仮説の設定と体系的に観察・収集されたデータを用いてその仮説の正当性を検証できるようなパラダイムの重要性」について説明されていました。

 

音楽という曖昧なものを媒体として臨床に用いている音楽療法士にとって臨床研究は簡単ではありませんよね。しかし、これから音楽療法の世界においてもっともっと証拠に基づく臨床を確立していくうえで「個人的な経験や観察」だけではなく、田部井先生がおっしゃるようなパラダイムに基づいた研究データがもっともっと必要になって来ると思いました。

 

一方で私は、「個人的な経験や観察」は全く無駄な事というわけではなく、それなしには臨床家がクライエントや患者にまっすぐ向き合う事もできず、またセラピストとして成長できないと思っています。「体系的に収集されたデータ」と「個人的な経験や観察」の違いを的確に捉え、どのような場合にどのようなデーターや観察が必要かということを見極める目を私達音楽療法士は養わなければいけないなとこの講義をききながら感じました。

 

2つ目の演題は、大阪工業大学工学部ロボット工学科の赤澤先生が開発中のサイミス(障害者のための支援楽器)を紹介してくださりました。

(サイミス研究会についてはこちらのリンクからどうぞ。)

パットやスイッチ、またはストローのようなものを吹くだけでプログラムされているサイミスからバイオリン、ピアノなど様々な音が流れます。

 

難易度も様々なレベルに調節する事ができ、成果によって使用者の機能を評価する試みも行っていました。その一方、すばらしい機械であるにもかかわらず使用してくれる病院や施設が少なかったり、心理的評価方法の難しさなど、研究・開発というものが直面する現実問題もシェアして下さいました。

 

赤澤先生の「ロボット工学」という視点からみた、このサイミスという機械の可能性という発表をお聞きしながら、自分自身の「音楽療法士」という視点から見たサイミスの可能性を照らしあわせつつ、また「音楽教育者」という視点から見たサイミスの可能性についての意見をお聞きする中、十人十色、やはりこういった研究には他業種のコラボレーションがあればどんどん色々な新しいアイデアが産まれていくんだろうなと感じました。音楽療法かけはしの会も、他業種の方同士がつながれる橋渡しのような役割を担うことが目標ですので、会員の方同士がネットワークを広げられるような体制をもっと整えていけるよう計画しています。

 

今回の研究会は参加者30名ほどで、学生さん達が飲物や食べものを準備してくれ大変アットホームで素敵な会でした。様々な大学で音楽や脳に関する研究を行っている学生さんや研究員さん、先生方とお話しさせていただき、まだまだ私の視野は狭いものだ!と感じさせられました。

 

音楽療法の世界では主流となって皆が信じて疑わないような定説でも、他の分野の方から見れば、「なぜそれを定説と信じているの?どうして疑わないの?どうしてそれをもっと発展させないの?」という疑問が浮かぶそうです。

 

「音楽療法士はもっと外に出て叩かれなきゃいけないよ」ともちろん厳しいお言葉も頂きました。確かに物事の発展には異なった意見にもオープンである心がけが必要だと私も常々思っています。いくつか参加した医療や脳科学の学会などでは厳しい意見のやり取りがあり、でもそこから新しいアイデアや協力体制、疑問等が生まれるのをみて素晴らしいなと感じていました。私もそういった経験を通して自身の音楽療法観をもっと発展していけたらと思います。

 

今回の研究会では厳しい世界で毎日研究に励みながらもとても輝いているたくさんの研究者の方々にお会いできました。その輝きはやはり「探究心」からくる「ときめき」にあるのかなと、お話をしながら感じました。

 

皆さん研究会や勉強会を熱心に開催しており「進化論から音楽と脳を考える研究会」(!)などもあるそうです。時間の許す限りこういった研究会に参加して、また何か面白いトピックをご紹介できればと思っています。