「NAMM ショー」への参加 レポートvol.2 〜音楽療法との関連は?~

ローランド
ローランド

中井 弥生

 

NAMM ショー 2012」リポートの続きです。

 

なぜこのようなイベントに音楽療法士も参加する意味があるのか  ––  今回はその点に焦点を当てて書かせていただきたいと思います。

実は私の夫も音楽療法士なのですが、彼はバンドをやっている事もあり、楽器や機材にとても興味がある人です。当初、夫の事を「おたく」と呼んでからかっていたのですが、音楽療法士として経験を重ねる中で、そういった知識がいかに重要かという事を痛感しました。

 

音楽療法は音楽を使って行う療法ですので、音楽は常につきものです。

 

音楽療法の仕事が他の専門家と違うところは、「音楽の要素が人間の行動、認知、心理、生理学的現象にどういうふうに 影響するかを熟知し,それらを療法のなかでどのように用いたらクライエントの目的達成をサポートできるかを判断し実行できる」ことだと思います。音の要 素、つまりピッチ、音色、リズム、などをコントロールできるものである楽器や機材というものは(声も入りますが)私たちの仕事の基盤と言えるものです。

 

(もちろん療法すべてに共通する人間性、カウンセリング関連や倫理の必要性なども基本事項ですが、これらについての話はまた別の機会に!)

 

 

音 楽の要素の話に戻ります。自閉症の方達の中には感覚統合が難しく、5感を刺激する信号を的確に脳の中でプロセスできずに不快感を覚える方達がいます。この ようなクライアントに臨床現場で遭遇した時、例えばドラム一つにとっても、全く違う音の質、手触り、視覚的刺激をあたえる物がある中から、適切なドラム選 んで使う必要があります。

 

身 体機能、認知機能、言語や発話のリハビリに使われる音楽療法には、リズム、ピッチ、テンポ、また楽器の配置位置から仕組み(音を出すためにどういった身体 的、認知的機能が必要か)まで、目的や患者さんの機能状態に応じて巧みに変化させる必要性があります。また、こういった医療現場ではデータを取る事を求め られる事が多々あります。目で見えるように記録し、分析し、まとめるといった事をするためには、楽器や機材に取り付ける事ができるソフトウェアーなどが必 要になることがあります。

 

若 者や青少年対象の音楽療法では、ロックやヒップホップが多く使われ、ソフトウェアーを使った音楽作成が、セルフエスティームの向上、感情表現、社会性の向 上、記憶や注意力の向上を目的とした音楽療法に多々使われます。ロックやヒップホップをアコースティックで作成するには限度があり、ソフトウェアー等があ ると効率性や便利性がグンとあがりますよね。

 

このように、音楽療法の臨床現場をほんの少し見回しただけで、音の源となる楽器や機材、関連ソフトウェアーなどがいかに深く私たちの仕事に関わっているかが見えてきます。

 

 

私 は以前の職場で楽器の購入やメインテナンスをまかされていたのですが、少ない予算で療法に的確な質、機能を持った楽器の入手に苦労しました。メンテナンス に対する知識をもっと持っていれば壊れなくても良かっただろう楽器がたくさんあったし、修理に関しても問題点を把握する力、的確な修理プラン、修理すべき か新しいものを購入すべきかを判断する力など、自分が楽器オタクだったらどんなに良かったかと思ったものです。

 

例えば、「このブランドは高価な割に質は期待されない」「このブランドは名前は知られていないけれど実は○○会社の子会社で質の良いものを使っている。」「この会社は最近工場のラインを変え品質が落ちた」など夫から教えてもらった情報がどれだけ役に立ったことか!

 

楽 器や機材はとても幅広い分野ですし、すでに多くの分野をカバーしながらたくさんの勉強をしている音楽療法士にさらにこの分野の事も勉強するとなると大変な 事かも知れません。しかし、こういった分野もいかに音楽療法に深く関わり、知る事が大切かという認識を持つ事はとても大切だと考えています。

 

かけはしの会スタッフの小沼さんが、昨年ボストン市バークリー音楽大学で開催された「音楽療法とテクノロジー」のシンポジウムに参加された際、講師の一人であるマギー博士(ブログその7で紹介)が、「すべての音楽療法士にテクノロジーおたくの友達が必要だ」という意味合いの事をおっしゃっていたそうです。

 

 

現場で働きながら、常に勉強会や研究など、とにかく忙しい音楽療法という職業。確かにそういった分野に詳しく楽しく協力してくれる方達がいれば心強いですね!また、その分野の専門家とお話しするためにはこちらも向こうの事を勉強しなければいけない。

 

 

「音楽療法かけはしの会」では異業種の方との交流や提携を重要視していますが、こういった視点から楽器、機材関係の方達との協力体制を促進していきたいとも考えています。