特別講習「Every Time We Say Goodbye」から

小沼愛子

 

皆さまこんにちは。

 

この秋は細々した音楽療法関連の用事が多く、リポートをブログに書きたいと思いつつ一つも書けないまま11月に突入、気がつけばサマータイムも終了です。

 

ボストンでは午後4時半に日が沈み、冬の近づきを感じる季節になりました。今年も2ヶ月足らずとなりましたが、引き続き本会ブログをよろしくお願いします。

 

今日は私が音楽療法を行なっている施設でスタッフを対象に開催された「Every Time We Say GoodbyeCaring for Caregiver」という特別講習のことを書いてみます。この講習のタイトルは、有名なジャズのスタンダートの曲名と同じですが、これではどんな講習か今一つピンとこない方も多いかもしれません。実は音楽とは関係なく、「クライエントの死にどう対処するか」が主題のトレーニングなのです。

 

副題の Caring for Caregiver のコンセプトは、本会の活動の中でも大変重要視している点で、ニュースレターで詳しくお伝えしたこともあります。文字通り、「ケアギバーのためのケア」です。ケアギバーとは、「ケアを与える人」の意味で、介護職をはじめとした対人援助職者を指す単語です。

 

この講習会場は障がいを持つ方々のための施設で、亡くなるクライエントも少なくありません。深い交流があったクライエント達の死を受け止めるのは、長年臨床をしている療法士やベテラン介護士達でも難しいものです。このような環境で働くスタッフのためにこのテーマで講習を行ってくれるのは本当にありがたいと思いますし、「ケアギバーのためのケア」の観点から見ると必須事項であるとも思います。

 

この講習はカジュアルなディスカッション形式のもので、地元のホスピス団体から講師を迎え、療法士、ソーシャルワーカの他、介護スタッフ20名ほどが参加しました。トピックとは裏腹に、始終和やかでオープンな雰囲気でトレーニングが進みました。

 

「スタッフとして専門家として留意するべきこと、NG行動は?」なども話し合われましたが、その反応は個人や文化によって異なること、状況は常にケースバイケースであり、絶対的正解のない部分も大きい、ということも確認されました。

 

 

講師が一貫して重要性を強調していた点が2つあります。

 

その一つ目は「セルフケア」です。

このような環境で働くスタッフ達のバーンアウトや鬱を防ぐため、いかにそれが重要であるかが繰り返し語られました。個人でできるセルフケアをはじめ、スタッフ間での相互理解やサポートなども重要な点であると語られました。

 

二つ目は「自分の仕事を誇りに思うこと」でした。

「皆さん、“大変な仕事をしていますね”と言われた時“いや、そんなことありません”と言っていませんか?」という講師の質問には参加者ほぼ全員が頷きました。しかし、講師は、「ケアギバーは実際に大変な仕事なのですから、今後は、“はい、大変です”と肯定してください」と言うのです。これには「アメリカ的だなあ」と一瞬抵抗を覚えたのですが、話を聞きながら「いや、この考えは私たちの心構えとして必要なことかも」と考えを巡らせました。人前でどう言うかはともかく、大変なことは大変と自分の中でしっかり認めて、それを前提にできる限りの準備し、誇りを持って仕事をすることは確かに必要だと、講習が終わるまでには考えがまとまっていきました。

 

 

死(deathという言葉は重く、人々はこの単語を避けながら話すことが多いものです。」と講師が示した通り、英語にも多数の婉曲表現があります。少し例を挙げると、die の代わりに「passed away」「is gone」「is no longer with us」「went to heaven」などと表現したりします。

 

「誰にも起こることなのに、人々は死について直接的に話すことを避ける傾向がある 」という語りかけからも色々考えました。

 

また、クライエントが亡くなった時のスタッフの考え方や対処法、感情表現に大きな個人差がある、ということも私にとって発見でした。例えば、「スタッフたるもの、ご遺族の前では絶対に泣くべきでない」という見解もあれば、「亡くなったクライエントの話をしている最中思わず涙ぐむことはある。号泣はNGだけれど、ご遺族の前でも許される範囲だと思う 」など、特定の状況での個人の情動とスタッフとしての行動についてディスカッションが続きました

 

私個人は、過去に立て続けに自分が担当するクライエント達が亡くなり、うまく書けないのですが、まるで心が固まるような感覚を経験した経緯があり、このような講習やディスカッションの機会があれば参加するようにしています。

 

「悩んでいるのは自分だけではない」と分かることもありがたいし、「難しいことだから悩んで当たり前」と肯定できる環境の大切さが身にしみる時間でした。

 

 

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