細江 弥生
今回から2回に分けて、「認知症予防・進行予防における音楽療法プログラム」に焦点を当てたいと思います。
この領域では、楽しみながら脳活性や交流を行うことを目的に、音楽を使った多重課題や社会性を促すプログラムが構築されていることが多いと思います。認知症カフェ、地域の集まり、高齢者施設などでも音楽プログラムは大人気で、カラオケ機器を扱っている会社なども力を入れているくらいです。新聞記事などメディアでもこの分野で活躍する音楽療法士が取り上げられているものを頻繁に見かけるほどで、音楽療法における新たな分野となりつつあると思います。
私自身、「認知症になっても希望と尊厳を持って暮らせる環境づくり」を目指したNPO法人で活動していますが、法人内でよく話し合われることは、「本人の自主性をどう育て、活かすか」という点です。音楽療法士としてセッションを行う時、「セラピストが何かを提供する側」という比重が多いことが多々あるのですが、この分野では特にそれを少し変換する必要があります。
認知症予防においても、「本人が自主的に選択し、計画し、実行する」ことが大変重要なことが良く言われています。しかし音楽療法士が全て準備し、進行し、終了すると、ある意味参加者からこれらの機会を奪っていることにもなりかねません。
「認知症ケアと予防の音楽療法」という本の第5、6章で予防プログラムについて執筆されている伊志嶺理沙さんも、参加者の方が役割を持ち自ら動くことを、「目的を見失わないようにサポートしながら全体をコーディネートする事」がセラピストとしての役割として重要だと書かれています。プログラム例では、参加者の方が自らコンサートの「計画」「準備」をし「実行する」様子が書かれています。
私が働く病院で開催したコンサートなどを患者さん達にある程度任せてみると、普段のリハビリ以上に頑張ったり、団結力や仲間同士の良い関係が生まれるといった事も多くありました。しかし、全てを任せてしまうのではなく、リハビリ目的にも沿い、安全で成功体験となるように全体を常にモニターし微調整や裏方役を行うという、セラピストの重要な役割がそこにあります。また音楽療法士だからこそできる音楽の上手な使い方や、無理なくできるアドバイスなども忘れてはいけません。
このように「参加者に役割を持ってもらい自主性を促す」ことが、今後もっと音楽療法の現場にも浸透していって欲しいと願っています。この視点は「高齢者=懐かしい昔の曲」といった構造にとらわれないという視点にも関係あり、「高齢者(またはクライエント)=サービスを受け取る側→セラピスト側が多く活動するべき」という思い込みを持たないことも重要になってくると考えています。
次回ブログでは、このような考え方も取り入れながら具体的なプログラムを行なっている例をご紹介する予定です。
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