すっかり冷え込みが厳しくなった今週、こちらアメリカでは感謝際がやってきました。歴史&宗教的な意味が薄くなってきたこの祝日、「(収穫に感謝して)とにかく食べる日!」という印象です。私もお腹一杯定番メニューを頂きました。おかげで頭の方はボーッとしがちの週末です・・
さて、前回から少し間があきましたが、「メアリーさんのピアノ」の続きです。前回までをお読みになっていない方は、ブログその「メアリーさんのピアノ#1」と「メアリーさんのピアノ#2」をご覧下さい。
前回のピアノ教則本の話題に関連し、その本を使いながらレッスンはどう進んでいるのか、という話です。
今から一年ほど前のことでした。
派遣元の音楽学校へ、「メアリーさんはそろそろ教則本レベル1が終わりそうなので、レベル2を用意してもらえますか?」と連絡を入れたのです。その時点で、メアリーさんがピアノレッスンを受け始めて一年数ヶ月経っていたました。
「了解。本は用意しておくわ」と、派遣元のピアノ科のディレクターさん。
ピアノ講師としても10年以上のキャリアを持つかなりデキる方で、私が敬意を払っている人です。
その彼女の口から出た次の一言。
「ところで、メアリーさんのピアノに進歩はあるの?」
私は内心、「え?進歩があったからレベル1が終わったのに??何故この質問?」と少し驚きましたが、考えてみればごく当たり前の質問なのだとすぐに思い直しました。メアリーさんの年齢を考えれば、そう訊きたくなるのも無理はない、と。
「進歩はありますよ。もちろん、進みはかなりゆっくりです。それから、右手の関節炎の症状が重くてあまり力が入らないので苦戦しています。そこは目をつぶるしかない、という時が沢山あります。でも認知や記憶に大きな問題はありませんから、理論的な部分は毎回しっかり理解していますよ」と答えました。
そこでそれまでのレッスンを振り返ると、メアリーさんはほぼ毎回のレッスンにおいて私への質問やリクエストを用意し、時には予習すらしていたことがくっきりと浮かび上がってきました。
「前回のレッスンでこう習った気がするけれど、この解釈で合っているかしら」
「次の章を自分で読んで最初のページを練習してみたけれど、この方法で合っているかしら」
「この言葉の意味は前に説明してもらったけれど、もう一回繰り返してもらえるかしら」
などなど。
何一つもらすことなく理解したい、という意志が伝わってきます。当然、私の方も真剣に、分かってもらえるように考えながら一つずつ丁寧に答えていきます。
メアリーさんの記憶力は年齢を考えれば抜群だと思いますが、それでも普通の人のように忘れることや、思い出すのに時間がかかることがあります。
「アイコ、ほら、何だったかしら?前回のレッスンで説明してくれたアレ・・・何て言ったかしら?ほら、アレよ・・・“ノイズ・レベル”(=雑音レベル)の話。」
「え?ノイズ・レベル?私、そんな話しましたっけ・・・?」
一瞬何のことか全く分からず、考える私・・・
「あ!もしかして。それって、ダイナミクス・サイン(強弱記号)のことですか?ボリューム・コントロール話のことですよね?」
「そう!それ!ダイナミクス!その単語が思い出せなくてねえ。自分のピアノがあんまりヒドいものだから、“ノイズ・レベル”って、つい本心が表れちゃったわ!」
と、カラカラ笑うメアリーさん。
あれから一年。
メアリーさんのピアノレッスンでは今もそのレベル2教則本を使っています。
そして、ゆっくりながらも確実に進歩し続けています。
*ブログ「メアリーさんのピアノ#4」に続きます。
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