ニューロリハビリテーションにおける音楽療法④

細江(旧姓中井)弥生&小沼愛子

 

 

このシリーズも4回目になりました。ブログその37に引き続き、「ニューロリハビリテーションにおける音楽療法」の分野で活躍している音楽療法士の研究やその手法の紹介です。

 

(まだこのシリーズをお読みでない方は、ブログその343537をお読みになって下さい。ニューロリハビリテーションにおける音楽療法について、また、この分野の音楽療法士について書いています。)

 

今回特集するのは、過去に本会のブログにも何度か登場した、ウェンディー・マギー博士 (Dr. Wendy Magee) です。

 

マギー博士は、イギリス、ロンドン市にある神経障がい専門の“ロイヤルホスピタル”(Royal Hospital for Neuro-disability)に長年勤めた後、現在はアメリカのテンプル大学で教鞭を取っておられます。

 

テンプル大学のウェブサイトに掲載されている紹介文によりますと、マギー博士は、オーストラリアの大学で音楽療法を専攻していた時代からリハビリテーションの現場で音楽療法を行いたいという情熱を持っていたそうです。それが20年以上ものリハビリ現場での臨床と研究という経験につながっているそうです。彼女のプレゼンテーションからもそういった熱い想いがいつも伝わってきます。

 

その想いを特に感じたのは、彼女が10数年間に渡って取り組んでいるThe Music Therapy Assessment Tool for Low Awareness States (MATLAS)の研究を発表された時でした。

 

これは、意識のレベルがまだ低い状態にある患者さんの状態を、音楽を使って査定するアセスメントツールです。まだ外的刺激を意識的にコントロールできるわけではない状態の患者さんを査定することは大変難しいのですが、「音楽への反応の特異性」に着眼し、音楽を使用して少しでも正確にこのような患者さんの状態を査定できる可能性があるのではないか、とマギー博士は論文の中で述べられています。このアセスメントが発表された時は、情熱を形にすることが出来る素晴らしい音楽療法士だと思いました。

 

 

最近では、昨年(2011年)の世界音楽大会でのキーノートスピーチにて「Neuro-Palliative Rehabilitation=神経緩和リハビリテーション」についてお話されていました。

 

リハビリテーション、といえば、「状態が向上することが全て」と思われがちですが、実際のリハビリ現場では、病気の進行によってその回復が妨げられる神経系の病気に遭遇することがあります。リハビリテーションは基本的に短期間で行われ終了するものですが、最近では、長期的なリハビリテーションが必要な方々のために「Neuro-Palliative Rehabilitation=神経緩和リハビリテーション」という考えが生まれたわけです。長期のケアになってくると、従来の身体、認知、言語機能回復だけを目標にするのではなく、様々な視点から患者さんの生活を支える必要性が出てきます。その場合、音楽療法士も、患者さんとの関わり方や臨床の方法を少なからず方向転換する必要があるとも言えます。

 

 

マギー博士の臨床や研究に共通して言えるのは、リハビリテーションにおいて大変広い見識をお持ちになりながら活動を行っているということなのですが、そんな彼女からこの「Neuro-Palliative Rehabilitation」という言葉が出てきたときは、「やはり!」と思いました。この分野に関わる臨床士にとって何とも「ピンとくる言葉」であり、この学会中に、この考え方についての話で盛り上がったのを記憶しています

 

 

また、「音楽療法全体を見渡しながらリハビリだけにはとらわれない自身」を持ち続けながら活動している方だということが彼女の活動や発言から伺うことが出来ます。例えば、アメリカで、音楽療法士同士がオンライン上で意見交換する場があるのですが、彼女はリハビリに関してだけでなく、全く異なるトピックについても書き込みをしていることがあります。

 

そして、リハビリテーションの研究だけではなく、音楽療法とテクノロジーの関連にも大変興味があるそうです。ボストンのバークリー音楽大学で過去3年に渡って行われている「Music Therapy and Technology」というシンポジウムの第一回目のホストを、同校音楽療法学部長のスザーン・ハンサー博士と共に勤めておられたのも印象的でした。

 

 

ここまで読んでいただいてすでにお分かりになったかと思いますが、マギー博士は大変エネルギーのある方でもあり、世界中でトレーニング、リサーチ、発表を続けられています。

 

昨年、わずか4ヶ月の間に、アメリカ、ヨーロッパ、アジアの違う国の学会やシンポジウムでお見かけすることがありました。もちろん、そのすべてのイベントで発表などされていたのですが、スコットランドでお会いした時には「私は何週間後かにアメリカに引っ越すのよ!」と、テンプル大学への移籍を嬉しそうにお話して下さり、「一体どうやったらそんなに精力的に活動出来るのですか?」と、思わず本気で質問してしまうほどでした。

 

 

尚、今年11月にイギリス、ロンドンで行われる「The Music Therapy Assessment Tool for Low Awareness States(MATLAS)」第一回トレーニングに興味のある方は以下のURLから詳細がご覧になれます。

http://www.rhn.org.uk/events/courses-and-training/matlas-training-nov-2012.htm

 

 

次回のこのシリーズ「ニューロリハビリテーションにおける音楽療法」では、「Music Therapy Methods in NeurorehabilitationA Clinician’s Manual」(ニューロリハビリテーションにおける音楽療法臨床マニュアル)の著者であり、オーストラリアで活動されているフェリシティー・ベイカー博士を紹介させていただく予定です。

 

 

  

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