ニューロリハビリテーションにおける音楽療法⑤ 〜フェリシティー・ベイカー博士〜

細江(旧姓中井)弥生

 

「ニューロリハビリテーションにおける音楽療法」のシリーズ、今回が5回目となりました。過去の関連記事は以下に掲載されていますので、まだお読みになっていない方は是非ご覧下さい。

 

ブログ34:「ニューロリハビリテーションにおける音楽療法①」

       〜ニューロリハビリテーションとは?〜

ブログ35:「ニューロリハビリテーションにおける音楽療法②」

       〜音楽療法界におけるニューロリハビリテーションの位置づけは?〜

ブログ37:「ニューロリハビリテーションにおける音楽療法③」

       〜コンセット・トマニオ博士特集〜

ブログ44:「ニューロリハビリテーションにおける音楽療法④」

       〜ウェンディー・マギー博士特集〜

 

今回の特集はオーストラリアのThe University of Queenslandで教鞭を取っておられる Felicity Baker(フェリシティー・ベイカー)博士です。

 

大学ウェブサイトによると、ベイカー博士はオーストラリアで学士と修士をおさめた後、デンマークの大学で博士号を取得したという、前回のマギー博士と同様国際色豊かな方です。また、彼女は最近オーストラリア外の音楽療法士やその関連分野の専門家と共同研究等を行っており、アメリカのバーバラ・ウィーラー博士とともに音楽療法を通した国際交流にも力を注いでいるようです。

 

彼女は、失語症や脳障害の患者さん達との臨床についての研究発表を多数行っており、その中には既存のメロディックイントネーションセラピーに、もっと音楽的要素を取り入れた応用手段「モディファイド・メロディック・イントネーションセラピー」に関するものや、構音障害の患者さんを対象とした発声への音楽要素の活用に関する論文があります。

 

彼女の論文には具体的な手法が書かれている事が多く、科学的研究の結果を臨床に使用する「証拠に基づく音楽療法」を実践するのに大変役立つものが多いのが特徴です。

 

そんな彼女の研究と臨床をまとめた、ジャネット・タンプリン博士との共著に「Music Therapy Methods in Neurorehabilitation: A Clinical Manual (ニューロリハビリテーションにおける音楽療法の方法)」があります。

 

この本でも、彼女は研究等で明らかになった、または解明されつつある音楽の脳への影響についてまとめ、その後にそれらの証拠を元にどういった具体的な訓練ができるかという例を、身体的機能、コミュニケーション、感情、認知機能などの分野別にまとめています。

 

患者さんが興味を持ちそうな様々なジャンルの曲をどういう風に利用できるかも紹介されています。(もちろん曲のリストはオーストラリアで流行っている曲を集めているので、日本で使用する場合は彼女が焦点を当てている目的にそった日本の歌を探す必要があります。)

 

どのような臨床現場でもそうですが、リハビリテーションの現場でも常に一定ではない患者さんの状態を考慮してセッション内容をうまく組み立てる必要があります。頭ではこの訓練が患者さんに必要とわかっていても、その日に患者さんがいきなりその訓練に準備ができている訳ではありません。

 

例えばパーキンソン病の患者さんには薬の効き具合で、いわゆる「オンとオフ」の差が激しい状態の方もたくさんいらっしゃいます。音楽療法の直前に理学療法があったのか、言語療法があったのかによっても患者さんの状態や、どういったワームアップが必要かなどが変わってきます。対象者の状態を良く観察し、だんだんとベストな状態へとリードしていく流れをつくることが必然的になってくるのではないでしょうか。ベイカー博士の著書には色んな事を考慮しつつ実践で使える訓練法が様々な研究結果とともに記されています。

 

また、ベイカー博士は最近お亡くなりになったトニー・ウィグラム博士とともに、「Songwriting: Methods, Techniques and Clinical Applications for Music Therapy Clinicians, Educators, and Students (ソングライティング:方法、テクニック、臨床的応用方法 ー音楽療法士、音楽療法教育者、音楽療法を学ぶ学生のために)」を執筆されています。

 

この本では、様々な対象者群においてソングライティングがどう有効的に使えるかを臨床ケースとともに具体的に説明しているそうです。私自信、現在リハビリテーション病院で音楽療法士として働く中で、ソングライティングをおこなう事が多々あります。それは機能訓練のためであったり、自己表現のためであったりと目的は多岐にわたります。

 

機能訓練のみがハイライトされがちなリハビリテーションの現場ですが、病気や事故で自分が今までもっていた機能を失う、又は低下しているのを目の当たりするという事はとてもつらい経験です。

 

音楽療法士の役割は機能訓練だけではなくそういった経験がもたらす心理的な症状へのケアもあると私は考えます。そういったとき、自己表現の手段として大きな役割を果たす一つであるソングライティングは、身につけておいて損のないスキルの一つだと思います。

 

 

  

 

 

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